日中国交回復十周年記念展

日中国交回復十周年記念展(朝日新聞)

【朝日新聞「ひと」(1982年3月11日付掲載) 記事全文】

背丈ほどもあるみかげ石を手ノミで刻み込む。絵の具を塗り、和紙にバレンで摺(す)り出す。引き込まれるような幽玄の世界が広がる−。

「石刻画」という新しい芸術分野を切り開いた創始者である。中国展覧公司主催の個展が、四月中旬から五月にかけて、北京、西安、杭州で開かれることが、このほど決まった。日中国交回復十周年記念も兼ねる。同国での大きな美術展としては東山魁夷、平山郁夫両画伯に続いて三人目だが、政府主催の記念事業は初めてという。

「私にとって、石は単なる素材ではない。石は硬い。しかし、硬いという現実とは裏腹に“石はやわらかい”という一念が私の心を満たすんです」。ノミを打ち込むと石に魂がこもり生命が躍動し始めるともいう。

中国は古くから石刻文化を培ってきた国だ。文明の先駆けを成した古代中国の歴史は、すべて石に記録されてきた。そうした中国の人たちの石に対する造詣(ぞうけい)の深さが自分の芸術を受け入れ、巨匠と並ぶ個展開催に踏み切ってくれたのだという。展示品は畳八畳分の富士山シリーズなど大作約五十点を持ち込む。会場も千八百平方メートルと広い。

飛騨川沿いの山村の石屋の次男坊に生まれた。幼いころから石とたわむれ、この道ひと筋に歩んできた。特に師はいない。ただ九年前に石屋の宿命とされるけい肺で他界した父親の言葉、「どのような状態におかれても、すっと石の中に迎え入れられ、話をするようになれば一人前だ」が耳から離れない。

個展後も、中国との文化交流を深めてゆきたい考えで、同国のどこかの岩壁に石刻画を描く雄大な夢も抱いている。

※写真・・・中国で石刻画展を開く。岐阜県生まれ。74年からニューヨーク、ストックホルムで個展。作品はボストン、シカゴなどの美術館に収められている。36歳。

(小川太一郎記者)

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